[各種撮影法の見直しー基礎的事項に照らし合わせてみるとー]

(元)日本医科大学千葉北総病院 放射線センター 技師長 川村義彦

はじめに

 X線単純撮影法は、放射線技術学の学的体系の中にしっかりと位置づけられた検査技術でなければならないが、現状は確立されているとは言い難いのではと私はみている。このような認識からその確立を目指して研究を積み重ねてきたが、ここでは撮影法の組み立て過程の研究解析結果の新しい知見を元に組み立て過程のあり方を提案する。

講演では各種の撮影法を取り上げて具体的な検討事例を示すが、本抄録では撮影法の組み立ての基本と組み立て過程のポイントとなる部分を提示する。

 

1.X線単純撮影法の組み立ては明確な根拠の上に成り立っていなければならない

X線単純撮影法は臨床技術であるが、そこには学問的な裏づけがあり、そして、それに基づく撮影法を組み立てる考え方と組み立て方法が提示され、それに基づいた具体的なポジショニングが出来上がっていなければならない。つまり、科学的な根拠に裏打ちされたポジショニングでなければならないのである。

 

2.X線単純撮影法の組み立てでの投影の基本

 点光源拡散投影であるX線単純撮影法の組み立ては、X線中心線を投影平面に垂直な投影を基本とし、その上で被写体の三次元軸を制御して目的の画像を得る技術と言える。

そして何らかの理由で被写体の設定が目的の画像を得るのに不十分となった場合に、ここで初めてX線中心線を斜入射させる斜入射撮影技術が加えられる。この場合は斜入射技術の基本を守って、被写体への斜入射方向の確実な設定と、目的にあった斜入射角度設定をしなければならない。

 

3.X線単純撮影法の組み立てでの被写体設定の基本と運動機能軸制御のポジショニングの要点

 通常の構造物の建築の設計・施工は、設計図・施工図のように構造物の三次元軸の制御で行われ、平面図に基線を設けこれを基準にして直交する他の2軸が設計され、そして施工され建てられている。三次元物体である被写体を設定するポジショニングは、この三次元構造体の設定の基本原則があてはまると考えられる。つまり、被写体の矢状面・水平面・全額面の3面の構造体の空間位置を設定するポジショニングは、この面に直交する運動機能軸の3(屈曲・伸展軸:運動機能軸のX軸、内・外旋の回旋軸:運動機能軸のY軸、内・外転軸:運動機能軸のZ軸)の制御によりなされている。基本原則に照らし合わせると、最初は投影平面に軸方向となる機能軸の制御で被写体設定の基準線が決まり、次に直交する2軸の機能軸で被写体の任意の角度設定がなされポジショニングが行われることになる。投影平面に基準線を設定する運動機能軸を基準軸と呼ぶと、他の2軸の運動機能軸は基準船の設定で決まることから変換軸と呼ぶことが出来る。基準軸は投影方向で異なり、正面撮影では内外転軸(Z軸)で、側面撮影では屈曲・伸展軸(X軸)、軸方向撮影では回旋軸(Y軸)が基準軸となるが、ポジショニングは基準線の設定を確実にし、運動機能軸の三軸を制御する技術だと言うことである。

 

4.運動機能軸の三軸制御のX線単純撮影法の組み立てでは三つの機能軸ごとの被写体設定目標を明確にしなければならない

 運動機能軸を基準にしたX線撮影法の組み立ては、臨床サイドの要求X線像を基に撮影法の組み立て方針を立て、そして、その上で読影のポイント像を明確にし、さらにポジショニングの三つの運動機能軸ごとの設定目標像に置き換えて提示することがポイントとなる。その理由は運動機能軸の設定を基準にした撮影法の組み立てとは、それぞれの次元軸ごとに目標像を正確に描出するためのポジショニングを作ることにあるからである。したがって撮影されたX線写真の検像の手順は、従来から行っている読影のポイント像の描出如何をチェックするのは重要だが、その前に三つの運動機能軸ごとに設定目標像通りに撮れているかどうかの技術的なチェックを確実に行わなければならないのである。

 

5.X線単純撮影法の組み立てには、幾つかの考え方とその方法があり具体的なポジショニングが組み立てられている。撮影法の選択に当たっては、この中からなぜその方法を選択したのかの明確な根拠を持ち合わせていなければいけない

 今まで代表的な組み立て理論や、その考え方に基づく組み立てルートと具体的なポジショニングが提示されているが、相互に比較してその中からなぜその方法を選択したのかの、選択の根拠を明確にあげて撮影法は提示されてはいない。しかし、この部分は科学的な根拠に裏打ちされた確かなポジショニングの要点で、各種の撮影法の見直しにおいても欠かせないポイント部分であり、しっかりとまとめていく必要がある。

 次に主だった組み立て理論や考え方を挙げると、1)人類学的基準線との相関データに根拠を置き、基準線を制御してポジショニングを組み立てる方法。

2)X線の入射点と射出点を求めて組み立てる対交点撮影理論を根拠に置きポジショニングを組み立てる方法。

3)フィルム(記録面)に対し目的部がある角度を有する場合の撮影で、二等分面()法の投影理論を根拠に置いて組み立てる方法。

4)四肢骨の撮影で、運動機能軸の3軸を設定して組み立てる方法。5)被写体を回旋する斜位撮影で、ポジショニングの作業工程を生かして技術を組み立てる方法。

6)専用撮影台をしようする方法など種々考えられている。

 

6.新たなX線単純撮影法の作成の組み立ての基本を理解し、新たな撮影法のポジショニングのポイントである元になっている撮影法の基準軸設定を押さえること

 新たな撮影法は基準撮影法からの一定の展開で作りだされることを理解して、各種の撮影法のポジショニングの勘所をおさえなければならない。一般的に、標準の概観(正面・側面・軸方向)撮影で目的の像が得られない場合に、新たな撮影法が作り出される。この時、正・側・軸方向の概観標準撮影の体位からの変換が多い。その組み立ては、正面や側面のそれぞれの撮影での投影平面に軸方向となる基準軸を固定し、他の二軸の運動機能軸の角度設定やX線入射角度を変更して撮影法が作られているのである。市販本の記述内容を注意して見ると、変換した運動機能軸(変換軸)の角度とX線斜入角度の詳細な記述はあるが、元の撮影法の投影平面に軸方向となる運動機能軸(基準軸)の記述は省略されていることが多い。しかし、この基準軸の正しい設定こそがポジショニングのポイントとなるので、標準の概観(正面・側面・軸方向)撮影法のどれから作り出された撮影法なのかを調べて、撮影では元になっている撮影法の基準軸の設定を、同じように行うことを忘れてはいけないのである。

 

7)科学的な根拠に裏打ちされたX線単純撮影技術を確立するためには、運動学・運動機能解剖学的要因を撮影技術構築の根幹に据えていかなければならない。

 ポジショニングとは、患者さんの動きのコントロールであり目的部のアライメントの制御にある。しかし、その基礎学問である運動学・運動機能解剖学を撮影技術の構築の根幹の一つに据えて根拠を明確にしていないところに、現在の撮影法の未完成さと曖昧さがあることを理解する必要がある。この改善には、今までの形態解剖を念頭に置いたポジショニングだけではなく、動きに関しての運動機能学・病態運動学・生体力学も取り込んで、初めてポジショニングが成り立つことを認識して、改善と努力が必要となっているのである。この部分については、講演で機能解剖からの根拠の事例を示して解説を加えた。

(以上、撮影法の組み立ての基本と、組み立て過程のポイント部分の項目を提示した。)