教育講演4 演題「胸部X線画像の読影を考える」
T)放射線技師にとって胸部X線撮影とは、
あらゆる放射線撮影・検査の基礎であり、最も基本的で、大切な業務である。一般に身内では、放射線技師は
“胸部単純X線撮影に始まり、胸部単純X線撮影に終わる”と言われるくらい極めることは、
とてもむずかしい撮影である。 その理由は、
1)胸部は、最も一般的な対象であり、頻度も多く診断上も、重要な役割を担っている。
2)人体の構造上最も分厚く、複雑で体位、整位、基準線や中心線等のポジショニング(位置決め)により、
撮影像の変化も大きく、分析評価も難しい。
3)肺内空気により低線量で、造影剤を使用する事なしに、コントラストの良い画像が得られるが、
高コントラストを示す肋骨等の骨が、対象である淡い肺紋理(微細な血管)陰影を阻害する事から、撮影条件の影響が大きく、選定が難しい。
4)撮影では、肺内含気を多くして、肺を大きく膨らませ、コントラストの良い写真を得る為に、深呼吸停止時の
撮影が要求され、特に呼吸停止困難な重症患者、幼児等では難しい、また心臓の拍動による“ボケ”を、
少なくする為に、出来るだけ短時間撮影をせねばならない。
5)胸部の疾患は種類も多く、診断上、形態的な変化による、わずかな異常陰影の描出や、黒化度の濃度の濃淡に
よる質的変化の判定が基礎となる為、適切な濃度範囲に収める必要がある。
6)医師が要求する検査目的に合った画像が、要求される。(医師側から見た医師目線の撮影が必要)
U)医師目線の胸部X線撮影(精査)
放射線技師は、チーム医療の一員として医療に、貢献するという大事な目標がある。
撮影は、医師が要求している検査目的に合った画像が得られる最適な撮影条件の選定とポジショニングが必要で
ある。それには、1)胸部の形態(解剖)と機能(働き)2)病態学(疾患のでかた)3)画像(正常像、異常像)の評価等の医学知識を獲得する必要がある。
V)胸部X線撮影法
A)標準法(ルーチン);
体位;立位(横隔膜を下げ、深呼吸が容易)、背腹(P A)方向(心臓が前にある。肩甲骨を外すのが容易)
整位;1)両肩を下げる。(肺尖部を広く描出させ、疾患の発生が多いので、より見やすくする。)
2)手首を腰にあて、上腕を体前面に押し出し、カセッテにつける。(肩甲骨を肺野からはずす為。)
中心線;第5胸椎(気管分岐部の高さ) 第6胸椎(中間) 第7胸椎(肩甲骨下角の高さ、肺門高さ)
撮影タイミング;最大吸気時(コントラストを付ける。) (但し、極度な深呼吸は、不安定になる。)
撮影条件;
1)短時間撮影(0.05秒以下); (体動や心臓の動きのボケ防止)
2)距離(FFD;180〜200cm); (心陰影の歪や拡大を避ける)
3)小焦点の管球(0.5mm); (肺紋理陰影の鮮鋭度をよくする。)
4)高圧撮影(120kV〜140kV); (心陰影、肺野陰影や肋骨等の濃度差を少なくする。
被曝線量を低下させる為)
B)精査は、標準撮影法に続いて行われるもので、さらに詳細な鑑別診断や内科的や外科的等の治療方針決定としての各疾患別撮影法で、まだ、確立されていない。 (市川の提唱で、今後の課題)
W)画像評価
1)胸部の正常解剖を理解し、続いて異常画像として @び慢性病変;線状,索状、微細顆粒状、斑点状、網状、蜂巣状、輪状、スリガラス状等
A腫瘍性病変;粟粒、結節状、塊状等を理解する。 B肺容量;肺の含気量の増加、減少を示す。
(肺の本来の働きは、ガス交換)
2)各疾患別特徴的異常陰影や所見について理解する。
3)画像を良く観察し、どこに異常があるのか、それは一体何か、また、どうしてそうなったのか等を考え、
最終的に、画像から病因を追求する。
4)シルエットサイン陽性とは、病変陰影(病変が接している事)によって、正常構造の輪郭が見えない場合を言う。 病変の位置や拡がりを理解する上で、とても大切な所見である。
読影の注意として、画像は3次元の立体構造を2次元で表示されている。即ち厚み方向が、圧縮され重畳して描出されるので、このことを考慮して読影しなければならない。
[まとめ]
1)胸部X線撮影は、とても奥が深く、極めるのは難しい。画像は診断上、重要な役割を担っている。
撮影担当の専門技師は、このことを十分理解し、目標達成に日頃から努力精進する必要がある。
2)他の放射線施設と比較し、撮影装置、画像作成システムや備品や標準胸部X線撮影法を見直し、常に反省し、撮影技術の腕を磨き、更に一層良い画像にする。
3)今後の課題として、胸部X線撮影の精査(医師目線の各疾患別撮影法)をどうするのか、まず、医師が要求する検査目的を十分理解する必要がある。それには、撮影で得られた画像が十分目的を達成しているか、評価できる知識を獲得する必要がある。また、他の検査や手術等で判明した所見については、反省材料としてどうすれば診断に役立つ良い画像が得られるか等、この研究会で再検討したいものである。