「読影から腰椎単純X線撮影法を考えると『P→Aポジショニング』になる」
厚労省の通達により我々診療放射線技師が画像診断における読影に深く関われる事になった。そこで腰椎単純X線撮影法を整形外科医師が読影している観点から再構築してみたので報告する。
整形外科医師は腰椎画像の何を読影しているのか調査してみた。
結果は『椎間板腔』を第一に読影していることがわかったので、諸先輩方がお書きになった撮影技術書を再度開いてみると、腰椎画像は『椎間板腔を明瞭に描出することが大切である』、『椎間関節間隙が明瞭に描出されることが重要である』、『第1腰椎から第5腰椎の椎体上縁および下縁が一致し椎間板腔の間隙を明瞭に描出する』、と書かれていた。
ここでいう椎間板腔とはTh12-L1からL5-S1までの6椎間板腔のことである。
この6椎間板腔をすべて明瞭に描出することはまず不可能であることは医療現場で働く我々には周知の事実である。
6椎間板腔を一度に明瞭に描出できない原因は、@ 一般撮影に使用するX線が小さな焦点から発生する拡散光である事。 A 腰椎には平坦化できない生理的前弯がある事。 以上の2点が考えられる。
では椎間板腔を明瞭に描出するとはどういうことか。
個々の椎間板腔を明瞭に描出するのならばターゲットになる椎間板腔のなす角度に対し接線方向にX線を入射すればよい。
しかし6椎間板腔を個々に撮影する事は現実的ではなく、1ショットで出来るだけ6椎間板腔を明瞭に描出できる最適のポジショニングを選択することになり、それは撮影する診療放射線技師のテクニックと知識に委ねられている。
ちなみにAの対処法として腰椎の生理的前弯を平坦化するため股・膝関節を屈曲させるというテクニックが言い伝えられているが、CTやMRIの撮影時を思い出してもらえれば股・膝関節を屈曲させても腰椎が平坦化しないことはご存知だと思う。
ではどのようなポジショニングを採用すれば多くの椎間板腔を明瞭に描出する事ができるのだろうか。次の図を見て頂きたい。
(図1、) (図2、)
特に重要な下位の椎間板腔に赤ライン・他に桃ラインを、入射X線を青ラインで示した。
診療放射線技師の皆さんならどちらの図で示したポジショニングで撮影するほうが多くの椎間板腔が明瞭に描出できる可能性が高いかお分かりになるだろう。
ここでもう一度腰椎単純X線画像の読影と疾患について考えたい。
椎間板腔を明瞭に描出する意義は、椎間板ヘルニア・椎間板変性・椎間関節変性・脊椎炎・脊椎椎間板炎・脊椎骨軟骨症等の初期画像診断は椎間板腔の狭小化であるからだ。
椎間板腔が広く明瞭に描出されていなければ上記疾患の画像診断にも支障をきたすだろうし、撮影する意義さえ薄れてしまうだろう。
整形外科医は椎間板腔の狭小化などの診断は正面画像では読影しにくく、側面画像でしか画像診断できないと思っているのが悔しくて仕方がない。
ポジショニングを工夫すれば正面画像や斜位画像でも十分に椎間板腔の画像診断に耐えうる画像を提供できる。
そして椎間板疾患の90%以上は第3腰椎以下の椎間板に好発する事も忘れてはならない。
つまり整形外科医はL4-5・L5-S1・L3-4に非常に強い興味を持って読影しているのだ。
図1、を見てもらいたい。
椎間板疾患の90%以上が好発するL4-5・L5-S1・L3-4の描出能は如何だろうか。
従来のX線を腹側から入射するA→P撮影法では、椎間板腔の向きと入射X線の向きから判断すれば一番画像診断したいはずのL4-5・L5-S1が広く明瞭に描出できないのだ。
図2、では椎間板腔の向きと入射X線の角度が並行に近いように見える。
X線を背側から入射するP→A撮影法を採用すれば拡散光であるX線の性質と、腰椎の生理的前弯を有意に利用でき容易に整形外科医を満足させる画像を得ることができる。
P→A撮影法は臥位はもちろん立位にも簡単に応用できる。
皆さんが普段撮影しておられる腹部単純立位X線画像で画像処理を腰椎にして腰椎の描出能を検証して頂きたい。
残念な事にX線撮影のプロである皆さんがお撮りになっている腰椎A→P画像より腹単P→A立位画像の方が椎間板腔が広く明瞭に描出された診断価値の高い腰椎が写っているはずである。
腰椎単純X線撮影は立位が基本だと考えるが、試行される時に戸惑う方が多いと思うので臥位でP→A斜位撮影する場合のポジショニングを提示しておく。
この体位はシムス位と呼ばれ産婦人科で使われているので強度の腰痛の方にもお奨めする。
図のように挙上する側の肘と膝で支えるため補助具は必要ないし脊椎がねじれ難い利点もある。
実際に整形外科医と同じ目線でX線画像を読影してみると、提供すべき腰椎単純X線画像は、今後『立位P→Aポジショニング』がスタンダードになると確信した。