片井整形外科病院 榊 和 宏
概要 医学の進歩には目覚しいものがあり、検査手段や診断技術さらには手術手技も大きく様変わりしている。このため後期高齢者から乳幼児まで撮影法も幅広い対応が求められる。ところが私共が手にする撮影法は、数十年前のものから最近のものまであって、それそのものは間違いではないが、読んでも解り難いとか健常者には対応できるが有病者には無理など、経験を要するものが多々ある。しかし近年の医療に求められる中に、比較診断や経時撮影のための位置合わせの対称性や再現性がある。そのためにはどれを参照にすべきか迷うし、技師の間でも差も出るところである。
本来撮影法は、用語の統一と併せて経験を余り積まなくても良いように、解り易くて遣り易く、またそれがどう撮影されたのか解るような撮影法でありたい。このため、簡略化と規格化を図って標準撮影法を作れば、対称撮影や再撮影時の位置合わせや経時撮影の再現も容易となる。
整形外科領域では、比較診断をするうえでの対比画像は重要であるし、治癒経過が追える画像の再現はより大切である。
1.手関節撮影
成書に見る撮影法は手掌面を着けるとか軽く握って撮影するようなっている。しかし解剖的に橈骨遠位端は2面の傾斜角があり、X線画像を見れば正面側面とも舟状骨と月状骨等と一部重複している。傾斜角度にはかなり個体差があるが、橈骨軸に対し側面は尺骨側へ大略20°、手掌側へ大略15°の角度を持っている。
コーレス骨折の手術で用いる橈骨遠位端掌側プレートの固定において、スクリューは関節面に沿って挿入される訳だから、下図の正面側面のX線写真のように関節内に打ち込まれたように写ることはない。そこでルチンとして手関節撮影は、撮影風景に示すように正面はパルマーの肢位で約15°指先を高く、側面も前方に差し出して約20°角度をつけての撮影が好ましい。ギプス等も同じ感覚で構わない。
2.
手根管撮影
従来の手を反対側で背屈する方法は、不安定なうえ入射点の採り方など患者も技師も負担が大きい。そこで図に示すようにカセッテを指先側に立て、約25°傾斜する器具に手掌面を乗せ、前腕軸を線束と平行、前腕の持ち上げ角度も大略45°とする。線束は患者を避け後方より水平に入射する。反対側はX線菅装置を患者の後ろを移動させるか、もしくは患者を動かす。覚え易く患者の負担もなく容易に簡略化規格化できる。
3.CM関節
成書に側面を掲載する本はあるが、正面を掲載することは稀である。しかし身近な撮影として多く経験する。器具の使用を薦めるが器具なしでも可能であり、一側でも可能であるが、図に示すような器具を製作し両側同時を勧める。器具なしでは握手する要領で5指側を軽く曲げて着け、第1指中手骨が水平となるよう腕をやや上から下ろしCM関節と5指MPを垂直とする。第5指と重ならないよう注意する。通常CM関節から5指MP関節に抜けるが、変形症では5指MP関節より尺骨側へくるので、腕は少し下ろす。器具を用いると両CM関節撮影が対称に容易撮影できる。
4.踵骨撮影(軸位・側面・距踵関節)
成書の多くは足底面および足軸を垂直とし、頭側の方向に40°傾けて入射するよう述べてある。しかし、受傷時の痛みやギプス固定またキルシュナー術後では上述では撮影できない。また入射角度40°の根拠が解り難い。距踵関節の関節軸は、水平線と42±9°(図a)を持つとの記載があり、これが40°の根拠・・・、撮影者側から見るとこの角度は立ち過ぎの感がする。そこで再考した角度を(b)に示す。描出幅を広く見るには踵骨骨端幅の1/2と踵骨前関節上端を結ぶ線の方が良いように思う。そこで足底面に対する長軸の角度を計測した。
足底面に対し25°をピークに15°の偏平足から40°程度の甲高まで広く個体差がある。高い位置から着地した踵の骨折では10°と更に浅くなる。この様に見ると従来法の40°斜入撮影では、足底が立てられないこともあり結果的には細く長く写る要因であったように思う。他にも撮影があることを考慮して、始めから再現できる体位として患者の負担も少ない仰臥位とする。上図中央に示すような配置を採り、X線管装置を足元へ移動し5cmの敷物をして下肢を屈曲して外側を着けて足底を25°程度背屈させる。カセッテは腓腹部に立てる。25°の三角ブロックを足底面に当て、ブロックの底面が線束と直角になるよう、膝の曲げと足関節の背屈で調整する。撮影状態を上図左示す。下図は外傷で搬入時の踵骨3方向(側面・軸位・距踵関節)のX線写真を示す。
この手法での3週に亘るX線写真とキルシュナーを挿入しギプス固定したX線写真を示す。このような足底が反せない症例では、カセッテ位置は膝関節の位置までくる。またギプスの固定角度が浅いと25°が取れないこともあるが、とに角フィルムに収まる角度にする。症状の改善で背屈程度は変わるが25°を順守する。
この軸位手技の応用として、同時撮影が可能であり役にたつ。踵骨靭帯付着部の炎症性疾患や骨折における健側との比較に同一肢位軸位は一側と同じで両踵の下にソフトロンボードを敷き、背屈角度は計測できないので最大背屈とする。比較診断の意味で同時撮影は有効である。
「私共の基本である一般撮影を、覚え易く遣り易くして、もっと大切にしましよう」